Message from the Officer in Charge
(2025年9月掲載)
プレミアムな価値の創出により収益力を強化。真の企業価値向上を
当社のサステナビリティ経営を振り返る
当社グループは、創業の起源である田園都市株式会社の発足(1918年)以来、「事業を通じて社会課題を解決する」という姿勢で事業に取り組み、環境や地域との調和と共生を重視した不動産開発業を主な生業として発展してきました。東急不動産において環境基本理念を制定し、環境と事業の調和を明文化したのは1998年のこと。当社グループには、都市と自然、人と未来をつなぐ価値創造に注力してきた歴史があります。
サステナビリティという言葉が定着し、ほぼすべての上場企業がサステナビリティ経営を標榜する時代となりました。当社においてサステナビリティを推進する組織を部として設置したのは2022年でしたが、サステナビリティという言葉がビジネス用語として認知される以前から、自然環境や社会・経済との調和を図りながら自社の成長をめざすことを当たり前の行動原理としてきた企業グループであると自認しています。
当社は、経営戦略を発信するツールとして統合報告書を重視しています。当社が初めて統合報告書を発行した2016年以降、私はIR担当として継続して制作に関与してきました。当時、現在のグループサステナビリティ推進部の前身であるCSRを中心に、経営企画、IR、総務の各担当が集結し、クロスファンクショナルな体制で統合報告書の制作を始めました。統合報告書のフレームワークや「6つの資本」の視点で、当社グループの価値創造ストーリーの議論を重ねたことで、当社のなかで横串が刺さり、相互理解が深化し、グループ全体を俯瞰する統合的思考や、「未財務」資本が将来の財務資本に転化する考えが共通理解として社内に定着しました。2030年からバックキャストする長期経営方針を策定した際も、統合報告書の制作作業を通じて培った思考を下敷きとすることで、理念体系やマテリアリティ制定等の議論を円滑に進めることが出来たと思います。
統合報告書を発行してちょうど10年。本質的な企業価値向上ストーリーを発信し、株主・投資家をはじめとするステークホルダーからの理解や共感、支持を獲得していきたいと考えています。今後も統合報告書等を活用して当社の経営戦略をわかりやすくお伝えするよう努めてまいります。
環境プレミアムの創出=企業価値向上と定義する
5月に公表した「中期経営計画2030」(以下、本計画)では、「環境経営」をバージョンアップしました。当社は、2021年策定の長期経営方針において、環境対応の優劣で商品・サービスが選別される時代がくることを見越して「環境経営」を全社方針として掲げました。当時、不動産デベロッパーで明確に「環境」を打ち出す会社は珍しく、グループ内で若干の戸惑いを含んでスタートした感もありました。4年経過した今日、事業会社の各事業部門において、環境課題の取り組みが浸透してきましたが、事業活動において、環境貢献と利益の両立は永遠の課題です。そこで、従来の余力で環境貢献をビジネスに付加するのではなく、環境貢献を事業の前提に組み込んだ上でビジネスとして成立させていく、環境価値をマネタイズすることに発想を転換することとしました。
本計画では、環境経営のテーマを「環境プレミアムの創出」と定義しています。3つの環境重点課題である「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」を切り口に、重点テーマで位置づけた社会課題解決を掛け合わせ、高い付加価値を提供し、収益力の強化を図る考えです。環境価値、体験価値や資産価値など、裾野の広い不動産業だからこそ生み出すことの出来る付加価値を追求していきます。ポイントは、収益力の強化です。環境への取り組みが財務数値につながり、業績に貢献してこそ、真の「環境経営」と胸を張ることができます。企業価値向上を計測する尺度は、基本的にEPSやROEに帰結しますので、サステナビリティ経営もEPSやROEで説明できるものに昇華していく必要性を痛感しています。
環境先進企業であることが競争優位性を高める
「環境経営」を掲げて以降、「本当に財務的な貢献につながるのか」というご質問をいただく機会が多くありました。実際、環境経営が当社グループの差別化戦略において大きな存在となりつつあります。例えば、当社は、CDP気候変動・水セキュリティのAリストに認定されるなど、外部から高い評価を獲得しています。中核企業の東急不動産は、国内の事業会社初のRE100を達成、認定されました。東急不動産は、自社の保有・運営するオフィスビル、商業施設、ホテル等において、お客さまに脱炭素という環境価値を提供しています。脱炭素、省エネなどを体感いただくことで継続的な取引につながる一方、当社はCO₂排出量削減、ブランドイメージ向上、事業機会創出、ひいては採用や社員のエンゲージメント向上など、多方面でのメリットがあります。
本計画の3つの重点テーマのうち、「GXビジネスモデルの確立」は、環境経営を掲げる当社らしいテーマ設定です。当社独自の模倣困難なビジネスモデルを確立することで、当社グループの事業ポートフォリオの耐久性を高めていくことができます。不動産会社である私たちがGXに取り組むことで、脱炭素社会の実現をはじめ、再生可能エネルギーのさらなる普及や地域経済の活性化、新産業の創出など、社会的インパクトにもつながると考えています。
本計画では、競争優位性ある事業を組み合わせて成長を加速していく考えです。環境経営の加速により、グループの各事業においてお客さまに選ばれる高付加価値を生み出し、収益力の強化を実現するというサステナビリティ戦略を成長のドライバーとしたい。そして、「誰もがいきいきと輝く未来」をあらゆるステークホルダーの皆さまと共有していきたい。「プレミアムな価値の創出」をグループ全体に浸透させ、企業価値向上の一翼を担ってまいります。