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事業活動を通じて社会課題と向き合い、「心の時代」に求められる価値を生み出し続けます。東急不動産ホールディングス株式会社 代表取締役社長 大隈 郁仁

ホームグラウンド・渋谷の再開発が佳境を迎える

1日に約330万人が利用し、東京を代表するターミナル、渋谷駅。その周辺の景色が大きく変わりつつあります。道玄坂の上に完成したオフィスビル「渋谷ソラスタ」からは、すり鉢状をした渋谷の地形がよく見えます。ちょうど谷底に位置する渋谷駅周辺では、100年に一度といわれる大規模な再開発が進んでおり、数年にわたって続いている工事も佳境を迎えています。当社が注力する再開発事業では、2019年3月に「渋谷ソラスタ」が竣工を迎え、8月には当社の本社も移転して、新たにグループ拠点を構えました。10月には大型複合施設「渋谷フクラス」が竣工し、その商業フロアには、新しく生まれ変わった「東急プラザ渋谷」が12月にオープンします。

長年、渋谷をホームグラウンドとしてきた私たちにとって、世界的にも知られた“SHIBUYA”の国際競争力を高めることは、まさに国家的事業にも匹敵するような重要な取り組みです。田園調布の街づくり以来、私たちが脈々と受け継いできた「挑戦するDNA」とグループの総合力を結集して、長期的視点でエリア全体の価値向上に貢献していきたいと考えています。

そもそも渋谷再開発は、東急不動産株式会社の初代会長である五島慶太が思い描いた構想でもありました。1953年に東急不動産を設立した五島会長は、その翌年に開かれた設立披露の席上で、こう述べています。

「渋谷駅附近に更に四、五個所高層ビルデイングを建築致しまして、渋谷を中心とする地区の発展整備に資したいと存じております」

まさに、現在の渋谷再開発を予見していたような発言です。この演説で五島会長は、渋谷区の総合開発計画に触れ、交通の大動脈は東京都と渋谷区が担い、毛細管または末梢神経にあたる開発は企業が実施したいこと、地上の混雑を解消するために渋谷地下街とバスターミナルを建設したいこと、金融機関の支店を集約した金融センタービルが必要であることなど、都市計画の具体的な構想を熱く語っています。演説を読み返すたび、この見事なまでの慧眼を、私たちも受け継いでいかなければならないと身が引き締まる思いがします。

街づくりを渋谷から広域渋谷圏へと広げていく

私たちは今、東急グループの一員として「エンタテイメントシティSHIBUYA」の実現に取り組むとともに、その街づくりの範囲を拡大し、青山、表参道、原宿、恵比寿、代官山といった個性豊かな街が複合的に結びつくエリア一帯を「広域渋谷圏」として、広がりのある街づくりを進めています。(統合報告書2019 P.22 特集「広域渋谷圏構想への挑戦」参照

「広域渋谷圏」は、職・住・遊・学・憩・創など、多彩な都市機能を包含する魅力的なエリアであり、これから先も高いポテンシャルを有すると考えています。渋谷区のオフィス空室率を見ると、都心5区で最も低く、平均賃料も最高水準です。賃料は着実に上昇傾向にあり、渋谷がいかに将来性のあるエリアであるか、ご理解いただけると思います(図1. 渋谷の優位性)。そこで、この「広域渋谷圏」への継続的投資をさらに推進するため、2018年10月に公募増資を実施しました。2023年度までに3,500億円の投資計画を設定し、積極的投資による賃貸事業基盤の強化とNAV(Net Asset Value)の向上を図ります。

図1. 渋谷の優位性

空室率の低下(都心5区)

グラフ

平均賃料の上昇(都心5区)

グラフ
  • ※2012年1月時点数値を100として指数化
  • 出典:三鬼商事

当社グループを取り巻く事業環境は堅調に推移しており、なかでも賃貸事業における渋谷の優位性は、極めて高い水準にあります。都心では、2018年以降のオフィス大量供給が警戒されていましたが、幸い杞憂に終わり、2019年竣工の「渋谷ソラスタ」「渋谷フクラス」は、ともに竣工以前にオフィスのテナント契約が完了しています。

世界から人が集まる“SHIBUYA”に対する投資家の皆さまの期待は高く、都心主要エリアにおける高付加価値プロジェクトを推進することで、重点拠点である「広域渋谷圏」を中心に、グローバル都市“TOKYO”の魅力向上を実現していきます。

株主価値・企業価値のさらなる向上をめざして

当社グループが掲げる「中期経営計画2017-2020」は2年目を終え、折り返し地点を迎えました。2018年度の業績は対前年比で増収増益となり、計画1年目に続き最高益を更新することができました。

中期経営計画の前半期を振り返ると、3つの成長戦略として掲げた「ライフスタイル提案型の街づくり」「循環型再投資事業の領域拡大」「ストックの活用強化」を着実に推進しながら、大型プロジェクトを中心に計画を順調に進捗させることができました。「渋谷ソラスタ」「渋谷フクラス」のほか、竹芝・浜松町エリアで開発が進む「(仮称)竹芝地区開発計画」では、当社として過去最大規模となるオフィスビルに、日本でも有数の規模を誇るソフトバンクグループの入居が決まり、2020年度の竣工を前に全フロアの契約が完了しています。

こうした想定を上回る業績の推移や公募増資の実施などを踏まえ、2019年5月に中期経営計画の見直しを行いました。見直しのポイントは2点あります。1点目に、計画最終年度である2020年度の目標値を上方修正しました。2点目に、資本政策の観点からの新たな目標指標として、EPS(1株当たり当期純利益)およびROE(自己資本利益率)を追加しました。(統合報告書2019 P.32「中期経営計画の見直しについて」参照

ステークホルダーの皆さまからは、株主価値ひいては企業価値を高めていくことが、強く求められていると認識しています。今後の株主価値・企業価値向上に向けた基本方針として、財務規律を維持しつつ、収益力の強化を図ることで、EPSの成長とROEの向上をめざしてまいります。(統合報告書2019 P.44「財務資本戦略」参照

渋沢栄一の合本主義からダーウィンの進化論へ

ここで改めて、当社グループの成り立ちを振り返ってみたいと思います。私たちの原点は、1918年に渋沢栄一らによって設立された田園都市株式会社にあります。東京の都市化・人口流入が進み、住宅難の兆しが見え始めるなか、英国発祥の「田園都市構想」に基づいて、自然と都市の長所を併せ持つ田園調布を開発しました。以来、私たちは100年以上にわたって、渋沢栄一らが掲げた高い志を「挑戦するDNA」として継承し、さまざまな社会課題と向き合ってきました。

事業活動を通じて社会課題の解決に取り組むその姿勢は、渋沢栄一が提唱した「合本主義」そのものといえます。公益の追求を使命に、最適な人材と資本を集めて事業を推進する合本主義の考え方は、事業や利益を独占して財閥を形成する経営とは一線を画すものでした。私利と公益を一致させ、長期的な利害形成によって「全体に富む」ことを理想としたのが合本主義です。まさに、経済的価値と社会的価値の両立を考え、サステナビリティを追求する昨今の経営スタイルを、私たちは過去から引き継いできたのです。

私は、環境変化の激しい現代にこそ、合本主義の考え方に立ち戻り、社会課題を解決するという高い志に根ざした長期目線の経営が必要だと考えています。当社グループの成り立ちと、その後の事業の広がりが、私たちが社会から必要とされる存在であり続けてきたことを物語っており、企業の持つ公的な側面をいつも意識するようにしています。そして、この「挑戦するDNA」のバトンを次世代へとつないでいくために、私自身が日頃から大切にしている考え方が、チャールズ・ダーウィンの進化論です。学生時代に彼が著した『種の起源』を読んで以来、影響を受けてきました。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるので もない。唯一生き残るのは、変化できる者である」

彼が示したといわれるこの考え方には、企業経営に活きるヒントが詰まっていると思います。企業が長く生き残っていく上で、環境やニーズの変化を的確に捉え、その変化に柔軟に対応していくことが、いかに重要であるかをダーウィンは教えてくれます。

当社グループが展開する事業やサービスは多岐にわたります。それは、私たちが公益を追求しながら進化を続けてきた歴史の結果であり、時代に即して、さまざまな社会のニーズに応えてきた証です。

そのような視点から、当社グループの歴史を改めて顧みたとき、ニュータウン開発やマンション分譲などの住宅事業から始まり、管理事業や仲介事業などを通してバリューチェーンを拡大してきた時代がグループの黎明期であるならば、その後、オフィスビルや商業施設などの都市開発を中心に、不動産投資ビジネスへと事業ドメインを拡大させてきた時代が、現在の発展期といえます。そして、昨今の技術革新の飛躍的進展を踏まえたとき、これから先のビジネスを、私たちはどのように進化させていくべきか、真剣に考える時期に来ているのではないかと思います。(統合報告書2019 P.10「社会課題とともに歩んできた価値創造」参照

変化を素早く捉えて、危機を乗り越えてきた

私は日頃から、変化を恐れない未来志向の経営を大切にしていますが、それは私自身のキャリアに依るところが大きいかもしれません。

1990年代初頭にバブル経済が崩壊し、不動産業界は大きな危機に直面しました。私が、入社時からの憧れだったニュータウン開発の担当になった矢先のことでした。事業の資金繰りが厳しくなるなか、何とか収益を出す方策を考えてたどり着いたのが、当時アメリカで話題になっていた証券化という手法です。すぐに日本でも不動産の証券化がスタートし、このスキームをオフィスビルなどに活用することで、賃貸事業の飛躍的な成長につながる道筋を描くことができました。

その後も、リーマンショック後の事業再構築や、グループのホールディングス化など、会社が大きく変化する局面において、常に先を見据えて変化を素早く捉え、自らを柔軟に適応させることで、一つひとつの危機を乗り越えてきました。およそ10年スパンで業界構造が大きく変化してきた歴史を考えると、これから先も長期的な視座で環境変化を捉えることが重要だと、つくづく感じています。

ダーウィンの進化論では、人類が進化する上で環境への適応力が重要であることに加え、もうひとつ重要なポイントとして、進化を続けるには「多様性」が必要だということが説かれています。進化は枝分かれの歴史であり、自然淘汰を繰り返すなかで、他者とは異なる特徴を持つ個体が生き延びて、多種多様に進化してきました。私たちの事業の広がりは、まさに枝分かれを繰り返してきた進化の系譜であり、多種多様に進化してきた事業の集合体が、ほかにはない独自のグループを形成しているといえます。

価値創造は、お客さまとの対話から生まれる

グループの成り立ちの違いに加えて、お客さまと直接触れ合う事業が多い点も、当社グループがほかの総合不動産企業と異なる特徴です。商業施設やホテルなどの運営業から東急ハンズのような小売業まで、幅広くお客さま接点を有しているからこそ、現場で社会やニーズの変化を敏感に察知し、新たな価値創造へとつなげることができます。「価値創造は、お客さまとの対話から生まれる」というのが私の持論です。

私たちが培ってきたグループの強みは、大きく3つに分けて説明することができます。(統合報告書2019 P.12「グループの3つの強み」参照

1つ目は、「多様なアセットと多彩なお客さま」です。安心と信頼の東急ブランドのもと、私たちは幅広いアセットに関与しており、お子さまからシニアの方々まで、あらゆるライフステージのお客さまに多様なサービスを提供しています。2つ目は、「ユニークな事業を生み出す風土」です。余暇を楽しむリゾート事業や“本格DIY”を展開するハンズ事業など、常に時代のニーズを先読みしてユニークな事業を生み出してきた歩みが、グループ全体の風土として私たちに根づいています。3つ目は、「専門性の高い人財とノウハウ」です。100社を超えるグループ会社で約3万人※1の従業員たちが、それぞれの強みを活かして活躍しています。また、専門性の高い人財が、そのノウハウをグループ内で共有しながら、新たな価値創造に取り組んでいます。

不動産業を起点にした私たちの事業領域は、時代の変遷のなかで徐々に広がってきました。特にライフスタイルや価値観が多様化し、都市で生活する人々のニーズも細分化する現代においては、社会やお客さまが不動産業に求める役割も大きく変わってきています。そのような環境変化のなか、私たちは今、グループの3つの強みを活かして、街に、社会に、新しい価値を生み出しています。

その価値創造のキーワードとなるのが、「ライフスタイル創造」という考え方です。私たちは、ハコやモノの枠を超えてライフスタイルを創造・提案する企業グループとして、新しい住まい方、新しい働き方、新しい過ごし方の提案を通じて、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。(統合報告書2019 P.14「独自性のある価値創造」参照

※1. 臨時雇用者を含む人数です

ライフスタイル創造の鍵は「過ごし方」にある

当社グループが取り組む「ライフスタイル創造」の考え方を、3つの進化のフェーズに分けて解説します(図2. ライフスタイル創造の進化)。

図2. ライフスタイル創造の進化

図

総合不動産業を展開する私たちは、もともと不動産開発、すなわちハコ起点でビジネスをスタートしました。最初に取り組んだのは住宅です。マンションや戸建住宅の開発・分譲を通じて、お客さまに住まいという価値を提供しました。ハコ起点でのビジネスは、その後、商業施設やホテル、ゴルフ場、スキー場などのリゾート施設へと広がりました。さらに、賃貸で収益を上げるオフィスビルが3つ目の柱として加わりました(ライフスタイル創造1.0)。

それから私たちは、不動産というハコを中心に、管理、仲介、運営へと不動産業の枠を広げ、売って終わりではない付加価値を創出しました。やがて、日本経済が豊かになる過程とともに、ハードだけではなくソフトサービスへのニーズが高まり、住宅というハコを活かして、時代のニーズに即した「新しい住まい方」を提案するようになりました。同様に、商業施設やリゾート施設は、モノ消費からコト消費への変化を汲み、「新しい過ごし方」の提案へと発展しました。余暇・シニア・健康分野をカバーするウェルネス領域では、各世代がいきいきと自分らしく過ごせるよう、幅広いサポートを提供しています。オフィスビルは、働き方改革や健康経営などの流れを受け、「新しい働き方」を提案する場へと進化を遂げています。このように、それぞれのハコを活かしたソリューションを生み出すことで、私たちは事業の幅を広げ、収益モデルを進化させてきました(ライフスタイル創造2.0)。

そして今、私たちが生み出すライフスタイル創造は、新たな局面を迎えています。それは、ライフスタイルや価値観の多様化、テクノロジーの進化などを受けて、「住まい方」「働き方」「過ごし方」という3つの領域の垣根が低くなってきているということです。例えば、ワーカーの考え方は、かつての「ワークライフバランス」から「ワークアズライフ」へと変化してきています。仕事を優先するかプライベートを優先するか、という二者択一ではなく、仕事も広く生活の一部と考えて、自分の理想を実現するライフスタイルです。働く時間や場所の制限が少ないフリーランサーの増加に伴い、仕事と休暇を合体させた「ワーケーション」(ワークとバケーションを組み合わせた造語)も普及し始めています。そのほか、働き方改革、保育や介護の問題、健康寿命の延伸など、現代社会が抱える課題というのは、いずれも3つの領域に重なる課題であり、あらゆる生活シーンを融合させたライフスタイル創造が求められていると感じています(ライフスタイル創造3.0)。

3つの領域のなかでも特に「過ごし方」は、当社グループの独自性が最大限に発揮できる領域といえると思います。私たちには、長年にわたり商業施設やリゾート施設を展開してきた強みがあり、管理・運営まで含めた「過ごし方」という視点で事業を捉えてきた優位性があります。

私は、この「過ごし方」のさらなる展開に、今後のビジネスの勝機を感じています。「過ごし方」を活かしたライフスタイル創造の輪を大きくしていくことが、当社グループがめざす姿であり、だからこそ、あらゆるライフステージでのサービス提供(時間軸での価値創造)や、エリア全体でのサービス提供(空間軸での価値創造)にこだわって、幅広いビジネスを展開しているのです。

サステナブルな社会と成長を実現するために

私たちのライフスタイル創造の進化は、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組んできた「挑戦するDNA」が生み出したものです。渋沢栄一が掲げた合本主義に立ち返れば、私たちにはライフスタイル創造を通じて、サステナブルな成長を追求し続ける使命があります。当社グループのサステナビリティに対する姿勢を明示するため、2018年度に「サステナビリティビジョン」および「サステナビリティ方針」を策定しました。(統合報告書2019 P.06「私たちのありたい姿」参照

環境問題やエネルギー問題は、地球規模で取り組む必要のある長期課題であるとともに、当社グループにとってのリスク・機会です。私たちは国際社会の一員として、2015年に国連サミットで採択された2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に貢献していきます。気候変動への対応に関しては、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同、100%再生可能エネルギーでの事業運営をめざす国際的イニシアティブ「RE100」への加盟(東急不動産)など、2019年も新たな施策を積極的に展開しています。

中期経営計画では、成長戦略を支える経営基盤強化の取り組みとして、「ESGマネジメント」を掲げています。ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、「環境」「働き方改革」「ソーシャルニーズ」「コーポレートガバナンス」の4つのテーマを策定し、2020年度のKPI目標を設定するとともに、PDCAサイクルを回しながら、それぞれの目標達成に向けた取り組みを進めています。(統合報告書2019 P.48「ESGマネジメント」参照

コーポレートガバナンスにおいては、経営の効率性向上、健全かつ透明性の高い経営体制構築に向けて、引き続きガバナンス体制の強化を図っています。2018年度は、会社法改正に向けた動きを含む社会的な要請の高まりを受け、コーポレートガバナンスガイドラインの制定などを行いました。また、当社初となる女性の社外取締役を迎え、より長期的で多様性のある議論ができるようになりました。(統合報告書2019 P.51「コーポレートガバナンス」参照

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VUCA時代に価値を創造し続けるための戦略構築へ

私たちは今、予測不可能な要素に満ちたVUCA※2の時代を生きています。これを脅威と捉えるか機会と捉えるかは、私たちの心構え次第です。私は変化の激しい不確実な時代だからこそ、「価値を創造し続ける企業グループへ」という私たちのありたい姿が、経営の羅針盤として大きな拠りどころになると考えています。2021年度以降を見据えて、このありたい姿をさらに追求するために、次の中長期経営計画の策定に向けたディスカッションを、これから本格化させていきます。

総合不動産業を生業としてきた私たちが、今後も付加価値の高い街づくりを通じて賃貸事業の厚みを増していくことは変わらないと思いますが、一方で、昨今の技術革新の飛躍的進展を、どのように事業に取り入れていくかは、真剣に考えていかなければならない課題です。2045年には、人工知能が人間の知性を超えるシンギュラリティ※3が到来するともいわれています。こうした環境変化に対しては、既存事業と、革新的技術を含めた外部との連携によって、いかに付加価値を生み出すことができるかが重要になると考えます。

不動産業界では、コワーキングスペースを運営してコミュニティ形成の場を提供するプラットフォーマー型の企業が生まれ、クラウドファンディングの手法が不動産投資の世界でも注目されるなど、私たちのビジネスを取り巻くさまざまな分野で、新たな事業モデルが出現してきています。イノベーションで競争環境が激変する業界もあり、不動産業界においても、不動産テックの進化などにより、今後まったく異なる業界のプレイヤーが競合になる可能性は大いにありうることです。

少子高齢化が進む国内においては、生産年齢人口の減少による労働力不足の問題も顕在化してきています。運営業や管理業に強みを持つ私たちにとって、これらは避けて通れない課題です。不確実性の高い未来とはいえ、単身世帯の増加、地方の過疎化、空き家の増加など、ある程度予想されている未来もあり、こうした変化を敏感に捉えることが重要だと考えます。

当社グループでは、RPA(Robotic Process Automation)の活用をはじめ、さまざまな形で業務効率化や生産性向上に取り組んでいるほか、CVC(Corporate Venture Capital)を通じた革新的技術の活用やシナジー創出を図っています。それでも、まだ取り組みは緒に就いたばかりです。スマートシティの構築などを通じて、政府が提唱する、情報社会の次に訪れる新たな社会「Society 5.0」※4の実現に貢献していくためにも、事業を取り巻く機会とリスクを見直しつつ、新たな成長の芽を探索し、次の成長戦略を描いていきます。

  • ※2. VUCA(ブーカ):Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなげた言葉で、予測不可能な社会経済環境をさす
  • ※3. シンギュラリティ:技術的特異点、またはその転換がもたらす世界の変化のこと。アメリカの未来学者レイ・カーツワイルは、人工知能(AI)が指数関数的に進化し、2045年までに人間とAIの能力が逆転する“ 技術的特異点”に到達すると予測している
  • ※4. Society 5.0:第5期科学技術基本計画で提唱された、人類史上5番目の新しい社会。
    第4次産業革命により、新しい価値やサービスが次々と創り出される「超スマート社会」をさす

すべてのステークホルダーの共感を呼ぶ経営を

最後に、私がグループの経営で大事にしていることをお伝えします。それは、あらゆるステークホルダーの満足度を高めるということです。これまでの経験でたどり着いた、私の経営哲学です。

株主・投資家満足のために経済価値を追求しながら、地域・社会満足のために公益を追求する。この両者のバランスをとりながら、私利と公益を一致させていくことが、当社グループの原点ともいえる合本主義の考え方です。お客さまに対しては、私たちの強みであるライフスタイル創造による精神価値を、取引先・パートナーに対しては、ともに価値を生み育てる共創価値を、そして従業員に対しては、働く喜びや働きがいを追求することで、それぞれの満足度を高めていきます。これら5つの満足度を高め、その輪を広げていくことが、すなわち企 業価値の向上につながると私は信じています(図3. 企業価値を高める5つの満足度)。

図3. 企業価値を高める5つの満足度

図

企業は社会の公器である以上、公共性や公益性の観点を常に意識しながら、特定のステークホルダーに偏ることなく、あまねく人々の「満足」を追い求めたいと考えています。言い換えれば、「共感を呼ぶ経営」ということかもしれません。共感なくして社会は変えられません。

先ほど述べたように、テクノロジーの進化やイノベーションの加速は、私たちの業界を大きく変えていく可能性を秘めています。それはすなわち、私たちの生活が大きく変わる可能性を意味します。例えば、MaaS(Mobility as a Service)のような取り組みは、私たちが当たり前だと思ってきた「移動」や「場所」の概念を、根本から覆すかもしれません。そうなったとき、それでも私たちは、長い時間をかけて旅行を楽しむでしょうか。観光資源やリゾートが持つ役割は、どのように変化するでしょうか。やがてロボットが人間の代わりに働き、私たちは一切働かなくてよい時代が訪れるかもしれません。そうなったとき、それでも私たちは、働くことに意義や魅力を感じ、働きがいを求め続けるでしょうか。

そうした未来を思い描いたとき、それでも私たちが求めるのは、感動する、喜びを分かち合うといった、私たちが本来持っている「人間らしさ=ヒューマニティ」、あるいは「創造性=クリエイティビティ」といったものではないかと私は思います。これからは「心の時代」であり、一人ひとりが自己実現をめざす社会が訪れようとしています。個人がそれぞれの価値観で自己実現を叶えようとするとき、豊かな体験、豊かな時間といった「過ごし方」が生み出す心の満足を、どうやって経済価値に変えていくか。その部分にしっかりと向き合っていくことが、これからの経営には必要だと感じます。

渋谷の街に出れば、多様な人たちに出会います。若者もいれば、シニアもいる。ビジネスパーソンもいれば、路上パフォーマーもいる。こんなに多様性のある街は、ほかにそうありません。渋谷に本拠地を構える私たちには、新しいライフスタイルを創造・提案するチャンスが、たくさん転がっているのです。私たち自身が渋谷から新しい働き方を実践し、外に向かって交流の輪を広げ、目に見えない価値、すなわち「ヒューマニティ」を大切にするプロフェッショナル集団になりたいと思います。そして最終的には、私たちの「生き方」そのものが、新しいライフスタイル創造になっていく。そのような状態を、私はひとつの理想として掲げたいと考えています。

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